春の嵐は過ぎ去ったのか、「日銀短観」から探る有望株選別のヒント <株探トップ特集>



―相互関税ショック後も戻り鈍い日本株、個別株投資ではバーゲンハント好機の側面も―

 市場が混乱している時ほど、企業の実態を見極める姿勢が重要となる。4月1日に発表された日銀短観には、そのヒントが数多く含まれていた。短観において、企業側はおしなべて慎重な業績計画を打ち出してはいるが、有望な業種とそうでない業種も浮き彫りとなっている。春の嵐は過ぎ去ったのか。嵐が過ぎ去った後、投資家はどこに資金を振り向けるのか。その選別の眼差しこそが、投資リターンを最大化するためのカギとなる。

●短観に映る企業の現在地と将来像

 春の訪れとともに、マーケットは大荒れの様相を呈した。日経平均株価は4月7日までのわずか8営業日で、一時は2割近くの急落に見舞われ、3万1000円を割り込む場面もあった。この下落は東京株式市場にとどまらず、国内債券市場や欧米の株式・債券市場、更には為替や商品市場にまで及んだ。リスク回避姿勢が一気に強まり、恐怖指数と呼ばれる米VIXは一時60を上回る水準を記録。終値ベースでは2024年8月の円キャリー・ショックを上回り、20年3月のコロナ・ショック以来の衝撃が襲った。

 この市場の混乱の引き金となったのは、米トランプ大統領が「解放の日(Liberation Day)」と銘打って発表した相互関税である。その内容は市場の予想を大きく超えるもので、くすぶり続けていた米国経済の後退懸念を一気に顕在化させた。関税の発動によってサプライチェーンの混乱が広がり、企業収益の悪化懸念が強まったことも、投資家のリスク回避姿勢を後押ししたといえる。

 4月1日には日銀から3月の全国企業短期経済観測調査、いわゆる「短観」が発表された。企業側の回答期間は2月26日から3月31日。回答期間は、米国の関税政策が世界経済に悪影響をもたらすとの警戒感が一定のレベルまで高まった時期と言えるだろう。

 大企業製造業の業況判断DI(Diffusion Index)は、プラス12となり、前回のプラス14から2ポイント低下した。先行き見通しとして示されていたプラス13をも下回る結果となり、4四半期ぶりの悪化である。一方、大企業非製造業の業況判断DIは、前回のプラス33からの悪化が予想されていたが、ふたを開けてみればプラス35へと改善。2四半期ぶりの回復となった。

 米国の関税発動自体は、税率の高さ以外の部分は予見されていたことでもある。結果として製造業と非製造業で反応の差が出ることとなったが、短観そのものは、市場全体が大荒れとなったなかで材料視されにくかったと見るべきだ。とはいえ、短観のなかには、これから本格化する決算発表を見据えるうえで重要な投資のヒントが潜んでいる。特に注目すべきは「今年度の当期純利益見通し」である。

●当期純利益見通しにみる注目セクター

 まず前年度(24年度)について、昨年12月調査の短観から今回発表の3月短観にかけて大幅な上方修正が見られた業種として、鉱業・採石業・砂利採取業(19.1%増から2.0倍)、造船・重機、その他輸送用機械(56.9%増から95.1%増)、化学(25.9%増から33.4%増)、食料品などが挙げられる。特に食料品は、12月時点では0.5%の減益見通しだったにもかかわらず、3月短観では23.3%の増益予想へと反転した。

 しかしながら市場参加者の関心はすでに終わった前年度よりも、始まったばかりの今年度(25年度)の見通しに向けられている。全産業ベースでは、前年度の4.0%の増益予想から、今年度は1.3%の減益予想へと転じた。これは製造業でも非製造業でも同様で、製造業は6.8%の増益見通しから0.7%の減益予想へ、非製造業も1.2%の増益見通しから2.0%の減益予想へと変化している。国内企業が期初に慎重な見通しを立てるのは例年の傾向であるが、今回のように関税ショックが重なる局面では、その慎重さが一層際立つ。

●光明が差す分野と個別銘柄

 このような厳しい業績環境のなかでも、今年度に増益が見込まれている業種は存在する。具体的には、窯業・土石製品は前年度比で41.6%もの大幅な増益予想となっており、これは前年度に39.5%の大幅減益となった反動によるものとみられる。非鉄金属については11.6%の増益見通しで、前年度に続き2期連続の2ケタ増益予想である。

 非鉄金属のセクターで個別に注目される銘柄としては、情報通信向け製品を手がけるフジクラ <5803> [東証P]の名が挙がる。生成AIの需要拡大により、データセンター向けの需要が伸長。前期は2ケタの増収増益で、過去最高を更新する見込みである。この傾向は今期見通しにおいても続くことが短観から想像される。

 小型株では、例えば自動車向けマグネシウム・アルミニウムダイカストを扱うSTG <5858> [東証G]の場合、タイの子会社をはじめ海外での受注が好調で、前期は過去最高益を更新の見通し。1月には配当予想の増額修正を発表した。4月1日付の株式2分割も効いており、自動車関税の影響が警戒されながらも、株価は回復基調である。

●安定成長が続く電機・建設セクター

 更に前年度、今年度ともに増益が見込まれているセクターが電気機械と建設である。電気機械は前年度の0.7%増益見込みが今年度は10.3%増益見通しになっている。建設は前年度については14.8%増益見込み、今年度は3.0%増益見通しだ。

 電機セクターでは、火災報知器大手であるホーチキ <6745> [東証P]に注目したい。第3四半期決算発表と同時に過去最高の通期見通しを更に上方修正し、増配も発表した。国内ではリニューアルや保守が順調に進捗したことに加え、海外においては、欧州及び東南アジアにおける製品の販売が好調に推移したことなどが寄与したとみられる。25年3月期は更なる業績の上振れと配当の増額も想定でき、今期に対する期待も募りそうだ。

 工場や鉄道分野などの電気機器システムを一括で引き受ける日立製作所 <6501> [東証P]系の八洲電機 <3153> [東証P]もチェックが必要だ。足もとでは鉄鋼・非鉄分野での制御盤・空調設備案件に加え、医薬品業界における受変電設備新設工事、半導体需要により好調な化学分野の大型案件、インバウンドで賑わう鉄道業界向けの車両空調装置や変電分野の受変電設備更新などが順調に進捗している。この傾向は26年3月期も続く可能性が高い。

 建設セクターに関しては、1980年代後半から90年代前半のバブル期前後に建てられた大量のオフィスビルやマンション、インフラなどが、経年劣化による改修工事の必要に迫られており、いわゆる「令和の大改修」と称される需要が企業業績を下支えしている。このうち、関西地盤の総合設備老舗であるダイダン <1980> [東証P]は工場、データセンター、医療関連施設などの受注が好調で、2月に過去最高益予想を上乗せする形で25年3月期の業績を再上方修正した。また年間配当予想は株式分割考慮後のベースで前の期からほぼ倍増に引き上げられた。第3四半期時点の進捗率から更なる利益の上振れが期待され、目標配当性向が40%以上であることを考えると配当増額も見込まれる。

 コンクリート構造物の補修業最大手であるショーボンドホールディングス <1414> [東証P]も目を引く。経常利益は13期連続増益を狙うツワモノで、国及び地方自治体の工事売上高が順調に伸長している。50億円の自社株買いも期限を前倒しして満額を買い付け、更なる自社株買いもありそうだ。株価は1年以上の調整を経て戻り待ちの状態にある。

 このほか電機セクターでは「マウスコンピューター」のMCJ <6670> [東証S]や光通信部品のsantec Holdings <6777> [東証S]、電子ビーム描画装置や分析機器を手掛ける日本電子 <6951> [東証P]などを、順調に業績を拡大している銘柄としてマークしておきたい。建設セクターではJR東日本 <9020> [東証P]関連の工事を主力とする東鉄工業 <1835> [東証P]や三菱重工業 <7011> [東証P]系の空調工事会社であるテクノ菱和 <1965> [東証S]、同じく空調工事大手の朝日工業社 <1975> [東証P]などが好業績期待株として注目を集めそうだ。

株探ニュース


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