これだけある「脱トランプ銘柄」、決算で見えてきた企業の底力<大山季之の米国株マーケット・ビュー>



◆マーケットが問うのは、不透明な環境下での企業の“自信”

 トランプ大統領の不規則発言に翻弄された4月の株式市場。米政府が各国に突き付けた相互関税上乗せ分適用は90日間の一時停止措置となり、マーケットは徐々に安定感を取り戻しつつある。とは言え、世界各国と進められている通商交渉の行方や、日々変わるトランプ大統領の発言など、マーケットの「不透明感」は拭い切れていない。

 トランプ政権の誕生からここまでのマーケット動向を簡単に振り返ってみると、「不透明感」の高まりとともに、投資マネーは株式、ドルを含めた米国資産から流出を続け、気が付けば安全資産の代表格である金に資金が大量流入するという状態になった。株式市場ではS&P500種指数、ナスダック総合指数などの主要指数が、足もとでは反転しているとはいえ、トランプ大統領就任以来、一時は20%以上下落。数少ない上昇銘柄は、金鉱山所有のニューモント<NEM>を筆頭に、タバコ大手のフィリップ・モリス・インターナショナル<PM>、小売りのダラー・ツリー<DLTR>、クローガー<KR>、ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス<WBA>といった生活必需品を扱うセクターという結果になった。

 そして5月相場を迎えるいま、マーケットの関心は「アメリカへの不信任」、つまり“アメリカ売り”がいつまで続くのかという点に移ってきている。その背景として重要な要素となるのは米国の景気動向だが、昨年まで株価が低迷していた安売り企業の評価が高まっているのは、徐々にアメリカの消費がダウンサイジングしつつある兆候と言えるだろう。実際、大手カード企業の延滞率を見てみると、最上位の富裕層を顧客とするアメリカン・エキスプレス(アメックス)<AXP>はそれほどでもないが、シティグループ<C>、バンク・オブ・アメリカ<BAC>、ディスカバー・ファイナンシャル・サービス<DFS>など、それ以外の層を中心とする企業の延滞率は上昇し続けている。

 ではいったい、トランプ関税の影響はどの程度、実体経済に波及しているのか。こうした観点で4月中旬から始まった各企業の決算発表を注視してきたが、そこでおぼろげながら見えてきたのは、不透明な環境が続く中でも、着々と業績を拡大する企業が存在するということだ。こうした企業は、トランプ政権の政策に動じることもなく、マーケットが何より求める“自信”が感じられる。「脱トランプ銘柄」とでも言うべきだろうか。

 積極的な自社株買いを発表したゴールドマン・サックス・グループ<GS>やアルファベット<GOOG>の株価が好転しているのは、その象徴と言えるだろう。当初は今の不透明な環境下では自社株買いを断念する企業が続出するのではないかと危惧されていたのだが、ゴールドマンは最大400億ドル、アルファベットは700億ドルと、マーケットを安堵させるには十分な積極姿勢を打ち出した。

 目を引くのは、今回の状況を受けて、トランプ関税の影響が想定の範囲内にとどまるケースと、関税の影響が大きいケースという二つのシナリオでガイダンス(会社予測)を発表した企業が現れ始めたことだ。ユナイテッド・エアラインズ・ホールディングス<UAL>やスリーエム<MMM>が代表例だが、これら2社は状況が悪化するケースも想定しながら、それでもきちんと利益を出せるという見込みを示したことでマーケットに好感された。

 特筆すべきなのがGEベルノバ<GEV>だ。同社もトランプ関税とそれによって生じるインフレを反映させた2025年12月期の通期ガイダンスを発表したが、注目されたのは併せて発表された受注残の状況だ。同社によると、2028年に稼働予定のガスタービンの受注残が積み上がり、さらにその先の引き合いも旺盛だという。足もとでは、企業が大型投資を抑制し始めているのではないかという懸念が高まっていたが、この発表によるとそんな兆候はまったくなく、長期的なエネルギー需要は引き続き伸び続けているという。同社の決算を見て感じるのは、ひょっとしたらトランプ政権のゴタゴタとは別次元で、企業の大型投資の流れは引き続き、旺盛なのではないかということだ。

◆トランプ関税が結果的にAIエージェント革命を後押し

 とは言え、昨年までAI(人工知能)相場をけん引してきたマグニフィセント・セブン各社は、事業内容から考えてもトランプ関税の影響から逃れることはできない。中国依存度の高いアップル<AAPL>、テスラ<TSLA>、半導体のエヌビディア<NVDA>はもちろん、アルファベットやメタ・プラットフォームズ<META>の広告事業も中国企業が大口のクライアントだからだ。

 ではそんな中で、トランプ政権の影響から脱することができるのはどのような企業なのだろうか。まずAI関連では、25年12月期第1四半期決算で市場予想を上回る好決算となり、翌日の株価が急騰したドイツのSAP<SAP>に注目したい。同社はAIを使う側、いわゆるAIエージェントに分類される企業だが、昨年に大型リストラを完了し、事業を従来の売り切りモデルからサブスクリプション・モデルへと転換したことで、クラウド事業の売り上げも前年比30%近く伸びるなど収益が大きく改善し、通期のガイダンスでも強気を維持した。AIエージェントでは、サービスナウ<NOW>の好決算もマーケットの高い評価を得た。同社によると、DOGE(政府効率化省)による支出カットが進む中で、政府機関の顧客を獲得できているという。

 これら企業の決算が何を意味しているのか。これこそがいまの相場を見るうえでの重要なポイントではないだろうか。先日、IMF(国際通貨基金)が世界経済の見通しを発表し、多くのメディアがアメリカの成長率鈍化を大きく伝えた。だが米投資情報誌「バロンズ」は、実はより興味深いデータを併せて発表している。IMFの調査によると、24年の企業支出に占める割合のうち、労務費が55%に対してテクノロジー支出は5%に過ぎないのだという。仮に労務費を10%削減して、テクノロジー支出を10%増やせばコストカットと生産性向上を両立することができる。つまり経営合理化を求める企業にとって、IT投資を進める余地はまだまだ大きいということだ。

 そもそもITソリューションを提供する企業がここまで成長してきたのは、顧客企業の業務効率化へのニーズに応えてきたからだ。トランプ大統領が意図していたとは思わないが、一つ確かなことは、トランプ関税がヒト、モノ、カネがフリーズする先行き不透明な経済環境を生み出したことだ。だが、そんな中でも企業は利益を追求しなければならない。だからこそ、AIエージェントによって業務の効率化を進めることが必須となっているのだ。

 つまり結果として、「トランプ関税」が企業のAIによる経営合理化を推し進めるきっかけとなったわけだ。もちろん合理化が進めば、上流の半導体やデータセンターから、下流のエンドユーザーや企業向けにAIを提供する企業に至るまで需要の増加は続くだろう。トランプ政権の一挙手一頭足に惑わされがちだが、AIエージェントの両社を始めとした各企業の決算発表で見えてきたのは、いかなる環境にも適応しなければならないという企業の本質と「アニマルスピリッツ」だ。その意味では今後、AIエージェントの関連企業として、IBM<IBM>やオラクル<ORCL>といった企業にも期待をすることができるだろう。

◆トランプ関税をものともしない“サブスク3兄弟”に注目

 脱トランプの代表的なセクターを挙げるなら、エンターテインメント・コンテンツを配信するサブスクリプション企業も欠かせない。改めて説明するまでもないかもしれないが、サブスク・モデルの強みは、ある程度高い確度で「予測可能収益」を算出することができることだ。顧客が逃げない限り、景気動向や社会的な変動などに左右されにくいという事業の特性を持っているのだ。

 筆頭に挙げられるのが、映像配信のネットフリックス<NFLX>、音楽配信のスポティファイ・テクノロジー<SPOT>といった企業だ。さらに配信サービスと言えば多くの人が「プライム・ビデオ」のアマゾン・ドット・コム<AMZN>や「ディズニー+(プラス)」のウォルト・ディズニー<DIS>などを思い浮かべると思うが、両社のサブスク部門は複合的な事業ポートフォリオの一部に過ぎず、アマゾンならEC(電子商取引)事業、ディズニーならテーマパーク事業と、トランプ関税の影響を受ける事業を内包している。そこでもう1社のサブスク企業の代表例として挙げたいのは、グラインダー<GRND>という日本ではあまり知られていない企業だ。

 2009年に設立し、20年にニューヨーク証券取引所に上場、24年12月期の売上高は3億ドル超に過ぎないが、同社の事業内容は異彩を放っている。LGBTに特化したSNS(ソーシャルネットワーク)アプリを展開しているのだ。一般的な日本人には想像しにくいが、大統領選の争点の一つになったことでも分かる通り、アメリカではLGBTが市民権を得ており、人口も多く、社会的な影響力も大きい。そんな中、彼ら、彼女らにとって同社の運営するSNSは欠かせないコミュニティになっている。しかもアメリカだけではなく、世界中にサービス利用者が広がっているという。偏見を捨てて客観的に見れば、これほど強力なサブスク・モデルはない。映像、音楽、LGBTと、それぞれの分野で強みを持ったこの3社は、「トランプ関税」にも動じない盤石なビジネスモデルを持つ企業として、大いに期待できるのではないだろうか。

 サブスク企業では、昨年のAI相場初期に注目を集めながらもマーケットの期待通りの業績を残せず、株価が低迷していたアドビ<ADBE>も加えられるかもしれない。同社に関しては、映像加工技術の陳腐化など、生成AIの普及に伴うマイナス効果も指摘されているが、25年11月期の市場予想PER(株価収益率)は17倍台と、バリュエーション面で割安感がある。同社はサブスク収入が事業全体の9割を占めており、今後、何らかの技術革新があれば“サブスク3兄弟”に負けないポテンシャルを発揮するかもしれない。

 さらに脱トランプでは、もう一つ、注目したいセクターがある。富裕層をターゲットとしたラグジュアリー・セクターだ。確かにこのセクターも「トランプ関税」の影響で株価は大きく下落している。だが、先述したアメックスの例でも分かる通り、基本的に富裕層の消費意欲は、米国景気が多少揺らいだところで衰えることはない。減税効果が表れる年後半に躍進が期待できるセクターの最右翼だ。アメックスやゴールドマン・サックスなどの金融企業や、フェラーリ<RACE>、ヒルトン・ワールドワイド・ホールディングス<HLT>などの銘柄が挙げられる。

◆「パウエル・リスク」も年後半は復調の期待大、その時に投資すべき銘柄は?

 では年後半に向けて、米国株全体の投資環境はどのように動いていくのだろうか。前回も記したことだが、年前半の混乱を乗り越え、米国景気や株式マーケットが年後半に浮上していくのではないかという見方には変わりがない。その要件の一つが、FRB(米連邦準備制度理事会)が早期利下げに動く「パウエル・プット」だが、ここに来て感じるのは、パウエル議長の判断が遅れること、つまり「パウエル・リスク」があるのではないかということだ。

 仮に7月から相互関税上乗せ分の適用が再開されるとするなら、最も大きな懸案は金利の問題だ。なぜなら追加関税が発動されると、現時点では一時的に輸入側の米国企業が関税を負担することになる。金利が高止まりすれば、中小企業が多いこうした輸入業者の短期的な資金繰りを圧迫し、下手をすれば連鎖倒産を招くような事態になってしまうかもしれない。トランプ政権としてはこうした事態は何としてでも避けなければならない。

 4月の相互関税発動後の米国債売りと長期金利急騰には、さすがのトランプ大統領も肝を冷やしたようだが、一時停止措置によって何とか鎮静化した。ただでさえ、多額の米国債の満期償還を控えた米国政府は、ベッセント財務長官の手綱さばきもあって、政策の発表によって金利を上昇させるような同じ愚を繰り返すことはないだろう。

 次に政権が期待するのは、FRBの早期利下げだ。トランプ大統領がパウエル議長に圧力をかけるような発言を繰り返すのも、こうした思惑が背景にある。だが景気低迷によるデフレと、関税によるインフレが同時進行する現状では、FRBとしては極めて難しい判断を求められることになる。したがって中立的な立場で金融政策を司るパウエル議長が慎重な姿勢を取るのは、理にかなっていることなのだが、それによってトランプ大統領はもとより、市場が想定するより利下げのペースを落とすかもしれない。これが「パウエル・リスク」の正体だ。FRBは22年の利上げ局面で後手に回ってしまったが、今回の利下げ局面でも再び対応が後手に回ってしまうというリスクは小さくない。この点をトランプ大統領は突いているのだ。

 とは言え、足もとの動きを見る限り、米政府と各国政府の交渉も徐々に進み、7月上旬の相互関税上乗せ分の停止期限切れを前に、どこかで妥協点を見つけて着地する可能性も高いのではないだろうか。そうなれば、減税、規制緩和、利下げの効果によって年後半の復調も期待できる。年前半はトランプ政権の政策に「米国売り」で応えたマーケットも、そのタイミングを伺い始めているのではないだろうか。そして、その時にまず、投資対象として挙げたいのが、今回述べたような、不透明な市場環境をものともせずに着々と事業を成長させ、いち早く「脱トランプ」を達成した企業群なのだ。


【著者】
大山季之(おおやま・のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト 

1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。


株探ニュース


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