「本人確認」待ったなし、口座乗っ取り対策の救世主!「多要素認証」関連 <株探トップ特集>



―ニーズ急拡大、全投資家にとって人ごとではないだけに「関心」「株価」急上昇―

 さまざまな分野でインターネット取引が活用されるなか、不正アクセスやなりすましによる被害が止まらない。最近では乗っ取られた証券口座により、まったく覚えのない株取引などが行われる事件が相次いでおり、その対策が急がれている。日本証券業協会では、セキュリティー対策として、ログイン時における「多要素認証(MFA)」の設定必須化を推進し被害防止に努める方針だ。正直なところ、ログインの際にひと手間増えるのは事実だが、不正取引に巻き込まれてからでは、時すでに遅しといえる。投資家にとって、まさに人ごとではないだけに、関心の高さは言うまでもない。ニーズが急速に拡大する「多要素認証」関連株を追った。

●今年に入り被害総額5240億円

 実際に存在する証券会社のウェブサイトを装った偽のサイト(フィッシングサイト)などで、密かに盗み取られたログインIDやパスワードでの不正アクセス・不正取引の被害が急増している。金融庁は5月8日、口座が乗っ取られたことによる不正取引での売買金額が1月からの4カ月累計で3000億円を超えたと公表。同庁や日証協などが投資家に注意喚起をしており、株式市場でも対策関連銘柄に関心が向かっている。今月5日に更新された5月末時点の被害状況は、1月からの累計では不正取引件数が5958件、売買金額では5240億円となった。

 日証協では、投資家に対し「利用している証券会社において、多要素認証が提供されている場合には、設定を必ず行うよう」呼びかけている。多くの証券会社が、すでに多要素認証を取り入れた本人確認をスタートさせておりセキュリティーの強化を図っている。

 多要素認証とは、いわゆる認証の3要素といわれる「知識情報」「所持情報」「生体情報」のうち、2つ以上を組み合わせて認証することを指すが、そういわれても少々分かりづらい。以前と同様のログインIDやパスワード(知識情報)による認証後、投資家が所持しているスマートフォンなどの機器(所持情報)にショートメッセージで送られてきたパスコードを入力するものや、指紋や顔(生体情報)などのいわゆる 生体認証を組み合わせて、セキュリティーレベルを強化することをいう。簡単に言えば、従来の認証に加えて、別の方法でも本人確認を行うということだ。仮に、ログインIDやパスワードが盗み取られたとしても、これまでの単要素認証と比較して被害を防止できる可能性が高まることになる。複数の証券会社で口座を開設している投資家も少なくないと思うが、会社によって認証方法もさまざまで、少々煩わしいのも事実だが、自分の財産を守るためには、まさに待ったなしなのである。

 証券口座の乗っ取り問題が話題となるなか、株式市場ではFFRIセキュリティ <3692> [東証G]や網屋 <4258> [東証G]、サイバーセキュリティクラウド <4493> [東証G]、ZenmuTech <338A> [東証G]をはじめとするサイバーセキュリティー関連株の一角に物色の矛先が向かった。ただ、サイバー犯罪との闘いは、いたちごっこでありセキュリティー対策の強化に完璧はない。

 全体相場がトランプ関税に翻弄されるなかも、きょうは強調展開となった。ただ、日米関税交渉の最終的な行方を見極めたいとの考えから、主力株が上値を追う状況は当面のところ限定されそうだ。こうしたなか、個人投資家は内需系小型株を選好する姿勢を強めており、関税などに左右されにくい多要素認証関連株にも改めて物色の矛先が向かう可能性がある。今回の証券会社の事例にとどまらず、さまざまな企業や公共機関、そして家庭などにおいても不正アクセスやなりすましによる被害が拡大するなか、最新の多要素認証の活用でサイバー攻撃に立ち向かう関連銘柄をピックアップした。

●エレメンツ、旬なテーマで飛躍へ

 6日付の日本経済新聞朝刊で、ELEMENTS <5246> [東証G]が「証券会社向けに口座乗っ取り対策のサービスを始めた」と報じられると、これを受けて同社株は急動意し年初来高値を更新した。株価の機敏な反応は、投資家の口座乗っ取り対策への関心の高さがうかがえるものになった。同社は、オンライン本人確認サービス「LIQUID eKYC」をはじめ、生体認証や画像認識サービスを展開している。生体認証を活用することで本人確認を強化し、IDやパスワードが盗み取られたとしても乗っ取りを回避できる可能性が高くなるという。当社の取材に対して会社側も「顔認証を使った多要素認証の一つ」としており、活躍領域拡大で今後のビジネス展開にも期待が高まっている。株価はきょうも強調展開をみせ新値追いとなっており、旬なテーマを材料に持つ銘柄だけに注視が必要だ。

●認証強化でヒューマンT、デジアーツ

 勤怠管理クラウドサービス「KING OF TIME(キングオブタイム)」を提供するヒューマンテクノロジーズ <5621> [東証G]にも注目したい。同社のDigitalPersona(デジタルペルソナ)ADは、生体認証(顔・指紋)と所持認証(ICカード・スマートフォン・ワンタイムパスワードなど)と、記憶認証(パスワード・PIN)を組み合わせた二要素認証・多要素認証を、Active Directoryで設定・管理することができる次世代の認証強化システム。納入事例としては、国内の官公庁・有名企業だけではなく米国防総省にも採用されているという。5月15日に発表した25年3月期決算は、連結営業利益が前の期比79.0%増の9億3000万円と急拡大。続く26年3月期も、同利益が前期比38.1%増の12億8500万円を計画し、連続で過去最高益となる見通しだ。株価は、きょう2134円まで買われ年初来高値を更新しており、ここからの一段高に期待も。

 デジタルアーツ <2326> [東証P]は、安全なログインで業務を快適にスタートできる世界を実現した「StartIn(スタートイン)」を活用したセキュリティー対策で活躍領域を広げている。StartInはシングルサインオンに加えて、同社の独自機能である多彩な多要素認証機能を搭載し、GPSを利用した「位置情報認証」や「第三者認証」といった独自の認証機能を組み合わせることで、強固な認証を実現している。3月には、StartInに「代理認証機能」を搭載。同機能により、すべてのWebサービスに対してシングルサインオンを実現し、より便利なアカウント管理を実現した。同社が5月8日に発表した26年3月期の連結営業利益は、前期比34.9%増の61億5000万円を計画しており、6期連続最高益となる見通しだ。株価は、5月27日に上ヒゲで7720円まで買われ年初来高値を更新。現在は7300円近辺で頑強展開となっており、目が離せない状況が続く。

●サイオスはグルージェントゲート好調

 サイオス <3744> [東証S]は、IDの管理をクラウドで行う「Gluegent Gate (グルージェントゲート)」が好調だ。同製品は、多要素認証、アクセス制限をサービスごとに自由に組み合わせることで、アクセスセキュリティーの強化を図り顧客ニーズを捉えている。また、統合ID管理機能でID情報を一元化することで、煩雑な運用による負荷を軽減することが可能だという。5月8日に発表した25年12月期第1四半期(1~3月)の連結営業利益は前年同期比3.7倍となる6800万円で着地、順調な滑り出しとなった。25年12月期通期は、前期比倍増の7000万円を計画しており業績回復ロードをまい進する見込み。プロダクト&サービスセグメントでは、主力自社製品の「LifeKeeper(ライフキーパー)」や前述のGluegent Gateなどが増収増益となり業績に寄与している。株価は、5日移動平均線を足場に、じわり上値を慕う展開。

●ソリトン、ソラコムなどにも活躍期待

 セキュリティー対策ソフトの開発販売などで高い実績を誇るソリトンシステムズ <3040> [東証P]だが、多要素認証分野も深耕しており活躍余地が更に広がりそうだ。同社の「Soliton OneGate(ソリトン ワンゲート)」は、デジタル証明書による多要素認証で、クラウドに点在する企業の情報資産を不正アクセスから守るID認証サービス。正規の証明書を持たない攻撃者はログイン画面にたどり着けないため、ブルートフォース攻撃(総当たり攻撃)対策にも有効だという。25年12月期の連結営業利益は前期比7.7%増の22億円を計画している。第2期に突入した「GIGAスクール構想(NEXT GIGA)」でも攻勢を強めており注目だ。

 世界180以上の国と地域でつながるIoTプラットフォームを提供するソラコム <147A> [東証G]だが、多要素認証サービス「Soracom Cloud MFA」は、携帯電話番号にワンタイムの認証コードを送信し、安全性の高い多要素認証を実現している。労力をかけずにSMSといった一般的なチャネルで本人認証を組み込めることに加え、導入しやすい低価格帯の料金体系も魅力だ。同社は、さまざま企業との連携強化を進めており、その事業領域の拡大にも大きな期待がかかる。

 また5月30日の取引終了後、ウェルネット <2428> [東証S]が提供するスマートフォン決済アプリ「支払秘書」に、日本通信 <9424> [東証P]の「FPoSライブラリ」による本人認証機能が7月から実装されることになったと発表。FPoSライブラリの機能により、マイナンバーカードを用いた本人確認に関する電子証明書が発行されて、支払秘書のアカウント作成時の本人確認とログイン時の当人認証を行う。本人確認の重要性が急速に高まるなか、翌営業日にはこれを材料視した買いが入り株価が急伸した。現在の株価は往って来いだが、重要テーマが材料なだけに目を配っておきたい。

 今回は証券口座の乗っ取りで、本人確認の甘さが露呈した格好だが、ネット社会の発展は、実際に本人と会うことなく物ごとが進むだけに、さまざまなシーンで本人確認の重要性が増すことになる。トリプルアイズ <5026> [東証G]は、5月20日に開催された「成果を出すAI活用EXPO2025」に出展し、 顔認証によるオンラインでの受験や受講における不正監視サービス「K-Argos(カルゴス)」をお披露目した。K-Argosは、ディジタル(東京都千代田区)とトリプルアイが共同で開発したシステムで、今後多くのシーンで活用が期待されそうだ。同社のAIソリューション事業は、顔認証AI勤怠における大手企業の導入が続き好調だ。

株探ニュース


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