乱高下もマグニフィセント7が上昇の先導役に復帰 (1) 【シルバーブラットの「S&P500」月例レポート】



S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

●THE S&P 500 MARKET:2025年5月
個人的見解:「名もなき者のように、転がる上昇相場のように」? S&P500指数は5月に6.15%上昇

 5月は、報道されたニュースをフォローし続けていたら、むち打ち症を発症してカイロプラクティックの施術が必要になりましたが、株取引を行っていたら6.15%(配当込みでプラス6.29%)という予想外のリターンを得られました。しかし、株式に関して言えば、今何をすべきか、という問題は残されたままです。年初来リターンが配当込みで1.06%の株式を売却して利回り4.3%の短期国債に乗り換えるか、あるいは情報技術や一般消費財といった年初来騰落率がともにマイナス圏に沈んだままのセクターの反発に乗じてみましょうか。

 5月も関税問題や各種政策に関する発表や報道が相次ぎ、相場は乱高下しました(「秘密裏」での交渉が復活してほしいものです)。こうしたなか、市場は(次々と飛び出すニュースに感覚がマヒしたのか)最終的にはうまく収まるだろうという前提で動いていました。つまり、一律10%の関税に地域ごとの上乗せ分が加えられ(IEEPA=国際緊急経済権限法の適用を巡る裁判所の差し止め命令は控訴中につき一時停止されており、その隙を突く形で)、それが減税延長のための財源に充てられ、さらには1兆ドルの追加資金も投じられることで、「私たち」は何かしら実感が得られる(帳尻が合っているように装う)というものです。大きく報道されていない様々な問題(財政赤字、予算、連邦債務およびその利子)に関しては何の関心も払われていませんが、今後(少なくとも中間選挙までは)「解決に向けた取り組み」が行われるでしょう。

 現実には変化は常に勝者と敗者を生み出します(ただし、必ずしも両者のつり合いが取れているわけではありません)。トレーダーが主体となる市場では、株式以外の取引対象(短期国債、暗号資産、コモディティ)を選んだとしても、流動性と相場の潜在的な嵐を乗り切る能力が必要となります。

 経済指標のソフトデータとハードデータの違いのように、市場の見方は実際の相場の動きとは異なっています。S&P500指数 は2024年と2023年の2年間で大幅上昇しましたが(配当込みのトータルリターンは2年間でプラス53.19%)、今年の年初来の上昇はごく僅かで(0.51%上昇、配当込みのトータルリターンはプラス1.06%)、さらに2月19日の終値での最高値から3.78%下落した水準にあります。移民労働者が減少する可能性が混乱を引き起こすとみられてはいるものの、足元の雇用は依然として力強さを見せています(賃金の下支え効果もあります)。今年は引き続き増益(伸び率は2桁台ではなく1桁台半ば)となり、企業(と株価。予想株価収益率の低下も支えとなる見込み)の下支えとなることが見込まれます。高い利益率(2025年第1四半期は11.84%となる見通し)も低下が予想されているとはいえ、依然として過去の平均(8.51%)よりも高い水準を維持しています。

 前述した通り、結論を言えば、市場は解決策が見つかると信じています。そういうわけで、長期的(2026年)な株価上昇のためには、現在の混乱や再度下値を試す可能性も許容されます。そして、こうした状況に投資マネーが集っている(株価水準も落ち着いている)というのが現状です。とはいえ、中長期的な視点に立つのであれば、コミットメントや安定性、そして同盟関係に対する信頼を欠いたままで確信を持つことは困難です。

 5月にS&P500指数は6.15%上昇し、11セクターのうち10セクターが上昇、347銘柄が値上がりし、155銘柄が値下がりしました。パフォーマンスが最高となったのは情報技術で、5月は反発に転じて10.79%上昇しましたが、年初来の騰落率は依然として1.85%のマイナスとなっています。パフォーマンスが最低だったのはヘルスケアで5.72%下落、年初来でも3.82%下落しています。年初来で見ると、S&P500指数は0.51%の上昇で7セクターがプラス圏となり、値上がり銘柄数が256銘柄、値下がり銘柄数は247銘柄となりました。セクター別では、年初来パフォーマンスが最高となったのは資本財サービスで8.22%上昇、エネルギーが5.42%下落して最低となっています。

 マグニフィセント・セブン 銘柄が相場上昇の先導役に復帰し、5月の指数のリターンに占めるこれら7銘柄の割合は57%となりました。S&P500指数の5月のトータルリターンはプラス6.29%でしたが、マグニフィセント・セブン銘柄を除くとプラス2.72%でした。なお、指数の年初来のトータルリターンはプラス1.06%で、マグニフィセント・セブン銘柄を除くとプラス2.28%でした。

 6月も関税問題(とそれに関連する司法判断)が引き続き重大な懸念材料となることが予想されますが、議会は大型の税制・歳出法案の可決を目指しています。主要な経済指標が相場の方向性を決定付けるのに一役買うことになりそうです。6月6日発表の雇用統計(ADP全米雇用統計の発表は4日)、11日の消費者物価指数(CPI)、翌12日の生産者物価指数(PPI)、さらに17-18日に予定されている米連邦公開市場委員会(FOMC、政策金利は据え置かれる見通し)が注目材料です。

●インデックスの動き

 ○「真実よりも奇妙」、「信じ難い」、あるいは「重大ニュースが相次いだ地獄のような月」など、どのように表現するにせよ、トランプ政権が打ち出した各種政策とそれらを材料とした取引の結果、5月にS&P500指数は6.15%上昇しました(配当込みのトータルリターンは6.29%)。これを年率換算すると105%(同プラス108%)となり、プロのセラピー料金(と酒場の飲み代)を支払ってもまだお釣りがくるようなリターンが1ヵ月でもたらされたということです。結局のところ、損失ではなく利益に文句を言えるのは良いことです。とはいえ、長期的にどうなるかはまだ分からず、先行きはあまり良さそうには見えません。もっとも「影にさえ、それはわかりません」。

  ⇒5月にS&P500指数は現時点では非常に満足できる(とはいえ悪化している)6.15%の上昇(配当込みのトータルリターンはプラス6.29%)を記録しました。市場のボラティリティや出来高を見ると、低下したとはいえ、歴史的な高水準を維持しています。S&P500指数は4月に0.76%下落(同マイナス0.68%)、3月は全面安となり5.75%下落(同マイナス5.63%)、2月は1.42%下落(同マイナス1.30%)、1月は2.70%上昇(同プラス2.78%)となりました。

  ⇒年初来では0.51%上昇(同プラス1.06%)となりました。

  ⇒2025年5月末までの1年間では12.02%上昇(同プラス13.52%)となりました。

   →2024年通年では23.31%上昇(同プラス25.02%)、2023年は24.23%上昇(同プラス26.29%)、2022年は19.44%下落(同マイナス18.11%)でした。

  ⇒5月は値上がり銘柄数が増加して値下がり銘柄数を上回り、347銘柄が値上がりし、155銘柄が値下がりしました(4月は168銘柄が値上がりし、335銘柄が値下がり、3月は152銘柄が値上がりし、349銘柄が値下がり、2月は248銘柄が値上がり、255銘柄が値下がりしました。2024年通年では332銘柄が値上がりし、169銘柄が値下がりしました)。

  ⇒5月は21営業日のうち12営業日で上昇しました(4月は21営業日のうち13営業日で上昇)。また、4営業日で1%以上変動(3営業日が上昇、うち1日は3.26%上昇、1営業日が下落)しました。4月は1%以上変動したのは11営業日(5営業日が上昇、6営業日が下落)でした。年初来では36営業日で1%以上変動(16営業日が上昇、20営業日が下落)しています。2024年通年では50営業日で1%以上変動しました(31営業日が上昇、19営業日が下落)。

  ⇒5月は11セクターのうち、10セクターが上昇しました(4月は11セクターのうち、5セクターが上昇)。

 ○S&P500指数の時価総額は5月に2兆9740億ドル増加して(4月は3630億ドル減少)50兆1660億ドルとなりました。年初来では3610億ドル増加しました。2024年通年では時価総額は9兆7660億ドル増加、2023年は7兆9060億ドル増加、2022年は8兆2240億ドル減少でした。

 ○ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は、5月に3.94%上昇して(配当込みのトータルリターンはプラス4.16%)4万2270.07ドルで月を終えました。4月は3.17%下落して(同マイナス3.08%)4万0669.36ドル、3月は4.20%下落して(同マイナス4.06%)4万1583.90ドルで月を終えました。過去3ヵ月では3.58%下落(同マイナス3.14%)、年初来では0.64%下落(同プラス0.08%)、過去1年では9.26%上昇しました(同プラス11.16%)。2024年通年では12.88%上昇(同プラス14.99%)、2023年は13.70%上昇(同プラス16.18%)、2022年は8.78%下落(同マイナス6.86%)でした。

 ○5月の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)は、1.09%と4月の3.21%から低下しました(3月は1.71%、2月は1.09%、1月は0.91%)。年初来では1.64%でした。2024年通年は0.91%、2023年は1.04%、2022年は1.83%、2021年は0.97%、2020年は1.51%でした(長期平均は1.41%)。

 ○5月の出来高は、4月に前月比7%増加少した後に、同11%減少し(営業日数調整後)、前年同月比では27%増加となりました。2025年5月までの12ヵ月間では前年比12%増加しました。2024年通年では前年比2%減少しています。2023年は同1%減で、2022年は同6%増でした。

 ○5月は1%以上変動した日数は21営業日中4日(上昇が3日、下落が1日)、2%以上変動した日数は3日(上昇が3日、下落が0日)ありました。4月は1%以上変動した日数は21営業日中11日(上昇が5日、下落が6日)、2%以上変動した日数は8日(上昇が3日、下落が5日)ありました。年初来では、1%以上変動した日数が102営業日中36日(上昇が16日、下落が20日)、2%以上変動した日数は12日(上昇が6日、下落が6日)ありました。2024年通年では、1%以上変動した日数は50日(上昇が31日、下落が19日)で、2%以上変動した日数は7日(上昇が3日、下落が4日)でした。

  ⇒5月は21営業日中14日で日中の変動率が1%以上となり、2%以上となった日はありませんでした。対して4月は21営業日全てで1%以上の変動となり、2%以上の変動が13日、3%以上の変動が6日、10%に達した日が1日ありました(10.77%、これは1962年以降で6番目に高い値)。年初来では1%以上の変動が71日、2%以上の変動が22日、3%以上の変動が7日でした。2024年通年では1%以上の変動が83日、2%以上の変動が11日でした。2023年は1%以上の変動が113日、2%以上の変動が13日でした。

 過去の実績を見ると、5月は59.8%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.05%、下落した月の平均下落率は4.68%、全体の平均騰落率は0.06%の下落となっています(この他に平均がマイナスの月は2月の-0.07%と9月の-1.13%です)。2025年5月のS&P500指数は6.15%の上昇でした。

 6月は56.7%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.98%、下落した月の平均下落率は3.30%、全体の平均騰落率は0.78%の上昇となっています

 今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、2025年は6月17日-18日、7月29日-30日、9月16日-17日、10月28日-29日、12月9日-10日、2026年は1月27日-28日、3月17日-18日、4月28日-29日、6月16日-17日、7月28日-29日、9月15日-16日、10月27日-28日、12月8日-9日となっています。

※「乱高下もマグニフィセント7が上昇の先導役に復帰 (2)」へ続く

株探ニュース


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