武者陵司「再度顕在化した日本株持たざる恐怖FOMO」



●市場最高値更新、5カ月で49%の急騰

 トランプ関税ショックによる2割暴落の大底3万0792円(4月7日)から5カ月後の今日、誰が49%高の4万5852円(9月19日)を予想しただろうか。政局の混迷が続いているにもかかわらず、日本株式の史上最高値更新が続いている。ここまで上昇してもなお、日本株は極端な割安状態にあり、更なる上昇の始動と見ることができる。この趨勢は自民党新総裁が市場の期待する高市早苗氏はもとより、小泉進次郎氏であっても変わるまい。小泉氏には、岸田文雄内閣で「新しい資本主義」戦略を推進した木原誠二氏がブレーンとしてついている。

 株式は配当利回りだけで2.4%、PER(株価収益率)の逆数である益回りは5.7%と国債利回りを大幅に上回り、超割安の状態にある。それなのに日本の家計の1624兆円の金融資産運用(年金保険の積立金を除く)は68%が利息ほぼゼロの現預金に預けられ、株式と投信はわずか25%にとどまっており、著しく非理性的運用態度だと言える。ちなみに、米国は94.5兆ドルの家計運用金融資産(年金保険の積立金を除く)の74%は株式と投信で、現預金は16%に過ぎない。いま、この日本人のリスク回避に凝り固まった非理性的運用姿勢に深刻な反省が巻き起こっている。

●ある投資家からのメッセージ

 あるラジオ番組のリスナーから次のようなメッセージをいただいた。「いつも聞いています。武者代表のコメントはいつも納得させられます。私はパート収入月8万円程度、年金が同じく月額で10万円弱ですが、配当金収入は税引き後で月額20万円です。株式投資を本格的に始めて20年ですが、20年前に株式投資を決断した自分自身に感謝しています。去年8月の日銀植田ショック、コロナショック、リーマン・ショック時は1日で200万円以上目減りしましたが、それでも投資を続け配当金収入が給与収入を上回ることができました。給料が上がらないなどと愚痴をこぼす前に、投資を実行し所得を増やすことを考えた方がいいのでは」。

●株式投資がもたらす格差

 この方が毎月税込み24万円の配当を得ているということは、年間配当額は288万円であり、東証平均配当利回り2.4%から逆算すると1億2000万円の投資元本をお持ちと推計される。20年前の日経平均株価は1万2000円であったから、今日までに株価は3.75倍上昇した。つまり、20年前の投資元本は3200万円であったと計算できる。では、20年前から今日まで預金だけで運用を続けていたなら、3200万円の投資元本はそのまま、毎月の利息収入もほぼゼロである。この株式運用が分かつ著しい富と所得の格差は、家計だけに止まらない。外国人、年金・保険、企業にも言えることで、日本国民全てが直面している現実である。

 まさしく「FOMO(Fear of Missing Out=株価上昇に取り残される恐怖)」を日本人は抱かざるを得なくなっている。日本株のばかげているほどの割安さにようやく人々は気づき、日本株を持たざるリスクを真剣に考えざるを得なくなっている。それは巨額の投資資金が日本株式に向かって奔流を始めることを意味する。

●各投資主体の状況を概観してみよう

 (1)最大の投資主体であった外国人投資家は、昨年来世界主要市場で最も値上がりした日本株比率を高めるどころかほぼすべてを売ってしまった。植田ショック時の昨年8月から今年4月までに12兆円を売り越し、いま慌てて買い戻しているが、ようやく売却分の半分が買い戻されたところである。

 (2)個人投資家ではNISA(少額投資非課税制度)改革が始まり投資ブームが起きている。2025年1~6月で8.8兆円が買い付けられた。年間では20兆円、前年比4倍増のペースである。いまのところ買い付けの大半が海外投信だが、日本株へのシフトが起きるだろう。

 (3)事業法人は昨年来、自社株買いを大幅に増加させている。PBR(株価純資産倍率)1倍以下の是正を求める金融庁・東証の要請、現金の持ち過ぎがM&Aターゲットにされることの恐れ、最も有利な余資運用は自社株であること、などが理由である。東証データによると、企業の株式純取得(1~8月)は、2023年2.8兆円、2024年4.5兆円、2025年7.6兆円と前年比7割増ペースが続いている。

 (4)年金など機関投資家もインフレ定着、金利上昇の下で、日本国債投資比率の引き下げと株式シフトを余儀なくされている。政府による国家公務員共済組合連合会(KKR)など公的年金運用の積極化の要請などが浸透していく。

 このように全ての投資主体が日本株に向かって押し出されている。日本で株式主体の資金運用体制が怒涛の勢いで始まっていることは疑いない。昨年の植田ショック、石破ショック、今年のトランプ関税ショックなど相次ぐ急落の度に、足止めを食らった日本株投資家は再度FOMO(日本株を持たざるリスク)を思い知らされていることだろう。

(2025年9月22日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン386号」を転載)

株探ニュース


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