明日の株式相場に向けて=止まらない暴走機関車、崩落の序奏か


 きょう(9日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比1298円安の3万1714円と大幅反落。前日に日経平均が1876円高と大きく切り返したところでは、ようやく底入れかと胸をなでおろした向きが多かったかもしれないが、波乱相場の終止符とはならなかった。きょうは米国による相互関税が午後1時1分に「予定通り」発動されたが、十分に周知されていたスケジュールの中で日経平均は下げ足を強めた。中国への累計104%の関税発動に対し、中国側も全面対決の構え。これは悪材料出尽くしどころか暗く長いトンネルの「入口」に立ったような暗鬱な気分にさせられる。

 株式市場がリスクオフに晒されるなかで米国の長期金利は急上昇、一時4.5%台まで水準を切り上げる場面があった。中国側からの宣戦布告で名刺代わりの米国債叩き売りという観測も出ていたが、それだけでは収まらない。トランプ米政権サイドからは海外が保有する米国の金融資産に課税を検討するという衝撃的な話も浮上してきた。今回のトランプ関税のブレーンでもあるスティーブン・ミランCEA委員長の隠し玉なのかどうか。事実なら、この政策は中国でなくても米国債を持っていることに限りなく恐怖を抱かせる。もはやカオスの極みで、リスクアセットの投げ売りに発展しかねない。

 相場は理外の理で動くことが多く、言い換えれば合理から外れた投資家心理のバイアスによって支配されている要素が大きい。「相場は生き物」といわれる所以(ゆえん)だが、敢えて言えば人間の欲望を食い物にする生き物といえる。欲望は時に陶酔状態にも似たユーフォリアを生み出す一方で、恐怖の深淵に足を引きずり込む強烈な負のオーラを内在させており、直近の波乱相場で忽然とその姿を現してきた。今回のトランプ政権が打ち出している高関税政策は、このまま行けば世界経済に与えるダメージが大きいことは間違いないが、悲しいかな未来を覗けない人間にとってその程度が分からない。

 以前にも触れたが、1929年の大暴落を契機とする世界恐慌では、1930年にフーバー大統領のもとで発令されたスムート・ホーリー関税法が火に油を注ぐ格好となったことは広く知られている。今と経済環境が全く異なるとはいえ、マーケットに刻まれた関税クラッシュの記憶が1世紀近くを経て甦ってくるような状況にあり、投資マネーはその亡霊に怯えている。ともすると究極の保護貿易主義によって、グローバル物流がフリーズ状態に陥る危険性をはらむ。これはまるで5年前のコロナショックと同じような環境に遭遇しているといってもよい。ひとつ決定的に違うのは、コロナは人類共通の敵であったが、今回はトランプ政権という暴走機関車を誰が止めるかという話になっている。

 一方、トランプ政権の側に立てば今やっていることは選挙公約を忠実に遂行しているわけであり、米国民の意思ということを御旗としている。更に、もう少し掘り下げた見方をすればグローバリスト(ディープステート)との決戦を米国民が支持しているというコンセプトだ。であれば、トランプ氏が口を滑らせたように、株安は想定内の痛みというのではなく企図したものであるとの見方も成り立つ。いずれにしても相互関税が発動されたことでパンドラの箱は開いた。トランプ氏が強い意志で「政策を絶対に変えない」と言っている以上、そう簡単に収束するとも思えない。投資家サイドもこれまでのモノサシで相場の強弱を計っても正答にたどりつけない可能性が高い。

 例えばPERなどで換算する企業業績と株価の関係、いわゆるバリュエーション論議は業態にもよるが総論として意味をなさなくなってくる。経済活動が危殆に瀕することで企業業績も大きく劣化することが明白だからだ。PERではなく、企業の純資産をベースとしたPBRの方は相対的に株価の車輪止めとして機能しやすいが、これも心許ない。日本の自動車業界の盟主で5年連続世界販売台数トップを誇るトヨタ自動車<7203.T>のPBRが、一株純資産を15%も下回る0.85倍で放置されるという状況で、なおかつ買いが入らないのは既に投資指標の信頼性が失墜しているに等しい。

 あすのスケジュールでは、週間の対外・対内証券売買契約、3月の企業物価指数、3月の貸出・預金動向が朝方取引開始前に開示されるほか、午前取引時間中に3月のオフィス空室率が発表される。また、5年物国債の入札も行われる。個別企業の決算ではファーストリテイリング<9983.T>の9~2月期決算に市場の関心が高い。海外では3月の中国消費者物価指数(CPI)、3月の中国生産者物価指数(PPI)、フィリピン中央銀行の政策金利発表、米国では3月のCPI、週間の新規失業保険申請件数、3月の財政収支などが注目される。このほか、米30年物国債の入札も予定。なお、インド市場は休場となる。(銀)

出所:MINKABU PRESS


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