明日の株式相場に向けて=「高陵には向かうことなかれ」待つも戦略


 きょう(12日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比248円安の3万8173円と5日ぶりに反落。5月の米消費者物価指数(CPI)は事前予想を下回る内容であったものの、米国株市場はそれほど好感することもなかった。米中貿易協議については「枠組みで合意」というヘッドラインに踊らされたが、結局のところ両国が5月の合意内容を履行することで一致したというもので、実質的にはさしたる進展がなかったといえる。それを見透かしてか、前日の米国株市場ではハイテク株を中心に冴えない動きとなった。欧州ではついこの間まで最高値圏をまい進していた独DAXが4日続落となっている。ラガルドECB総裁が利下げ打ち止めが近いことに言及したあたりから、雰囲気が微妙に変わってきた。

 きょうは三菱重工業<7011.T>をはじめとする防衛関連株に物色の矛先が向かい、半導体関連の主力どころは上昇一服となった。イスラエルから米国に対し、イランへの軍事作戦を遂行する準備が完了したとの報告がなされ、これがにわかに地政学リスクの高まりを意識させた。トランプ米大統領とイスラエルのネタニヤフ首相の関係はかなり冷え切った状態にあるが、ネタニヤフ氏もトランプ氏の態度に痺れを切らしているのか、足もとで動きを先鋭化させている。今回の“中東有事”はポーズかもしれないが、米政府は中東に駐留する政府職員などを退避させるなどの対応を行っており、足もと急騰をみせた原油価格なども横にらみに、これまでとはキナ臭さのレベルが少々異なっているのは確かだ。

 もっとも、中東情勢などが取り沙汰されてもそれは毎度のことで、今回の件も日本において緊急性をもって防衛関連株に資金がシフトされるべき確固たる背景とは言いにくい。現状は、いわゆる循環物色の一環として捉えておくのが妥当だ。基本的に相場が上げ潮に乗っている時は、むしろ全面高とはならずセクターによって明暗が生じるのが常で、それは上昇波動における投資資金のウネリが投影されたものであり、テーマ買い対象として認知されていれば今は「暗」の側であっても、再び資金は回ってくる。半導体関連と防衛関連は相場的にはトレードオフに近い関係にある。半導体関連が高い時は保有ポジションを減らし、株価の調整を入れたところで拾い直す。防衛関連も同様で高い時に上値を買い進むのではなく、押し目を待つという「見(けん)」のタイミングを上手く織り交ぜることが、戦いを有利に進めるうえで急所となる。

 ただ、基本的に今の相場は深追いをしない方が賢明な時間帯といえるかもしれない。前日時点で東証プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の騰落レシオ(25日移動平均)はいずれも110%台で、過熱ゾーンの120%超には至っていない。しかし、この数字以上に個人投資家のマインドは前のめりになってきているようだ。国内ネット証券大手の直近データでは、全市場ベースの信用評価損益率はマイナス3.5%と統計的には天井圏を示唆。更に、以前はマイナス20%以下に沈むことが茶飯事だったグロース市場の信用評価損益率も、直近はマイナス4.3%と全市場ベースに並ぶ水準まで著しい改善を示している。

 株式需給面から相場を判断すれば8合目から9合目に来ているような場面であり、今、果たして「株を持たざるリスク」が強く意識されるのかといえば、決してそういう環境下にはないといえる。中長期投資、短期投資といった時間的な概念を外せば、株は安いところで買って高いところで売る、というのが成功するための基本フォーマットであるということを忘れてはならない。

 戦術に関した中国古典を引けば、兵力はもとより、“地形”などの外部条件も大きな勝敗の要素を占めることが多く示されている。体勢的に不利を被る環境では、その分だけ実力を差し引いて考えることが戦局を捉えるうえで重要であるという考え方。高値圏で買いを入れるのは引力に逆らった不利な体勢での投資ということになる。例えば、孫子はその「九変篇」の冒頭、兵を用いるにあたって「高陵には向かうことなかれ、丘を背にするは逆らうことなかれ」と説いている。すなわち高地に向かえば、後顧の憂いなく斜面を駆け降りてくる敵の術中にはまるという戒めであり、その際は、敵を平地に誘導してから戦うしたたかさを持てと教えている。日経平均4万円のコールが闊歩するようなイケイケムードの相場環境で、杞憂かもしれないが、はやる気持ちを抑えていったん相場の流れを再確認するタイミングが訪れている可能性はある。相場巧者は勝つことよりも負けないことを第一義とするという。「丘を背にする敵」とは対峙しない戦略の妙は、株式市場でも指針となる。

 あすは株価指数先物・オプション6月物の特別清算指数(メジャーSQ)算出日にあたる。これ以外では、前場取引時間中に3カ月物国庫短期証券の入札が行われるほか、後場取引時間中に4月の第3次産業活動指数、4月の鉱工業生産指数(確報値)などが開示される。海外では、4月のユーロ圏鉱工業生産指数、4月のユーロ圏貿易収支などが注目されるほか、米国では6月の消費者態度指数(ミシガン大学調査・速報値)に市場の関心が高い。(銀)

出所:MINKABU PRESS


本画面にて提供する情報について
本画面に掲載されている情報については、(株)ミンカブ・ジ・インフォノイドが配信業者です。
本サービスに関する著作権その他一切の知的財産権は、著作権を有する第三者に帰属します。情報についての、蓄積・編集加工・二次利用(第三者への提供等)・情報を閲覧している端末機以外への転載を禁じます。
提供する情報の内容に関しては万全を期していますが、その内容を保証するものではありません。当該情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社及び情報提供者は一切責任を負いかねます。
本サービスは、配信情報が適正である事を保証するものではありません。また、お客様は、本サービスを自らの判断と責任において利用するものとし、お客様もしくは第三者が本サービスに関する情報に基づいて判断された行動の結果、お客様または第三者が損害を被ることがあっても、各情報提供元に対して何ら請求、また苦情の申立てを行わないものとし、各情報提供元は一切の賠償の責を負わないものとします。
本サービスは予告なしに変更、停止または終了されることがあります。

本サービスを提供するのは金融商品取引業者である内藤証券株式会社 (加入協会:日本証券業協会 (一社)第二種金融商品取引業協会)(登録番号:近畿財務局長(金商)第24号)です。